わたしの試聴室
今回は、モーツァルトとサリエリの新譜の紹介でした。モーツァルトは最近何かいいCDないかなと思っていたところなので早速聴いてみました。
ジョルディ・サヴァール/ル・コンセール・デ・ナシオン「~交響曲による遺言~ モーツァルト : 交響曲第39, 40 & 41番」
古楽器演奏の世界の巨人ジョルディ・サヴァールが自ら創設して長年率いているル・コンセール・デ・ナシオンを指揮したモーツァルトの交響曲第39番、40番、41番のCDが夏に出ました。録音は2017年と2018年の夏に行われています。
- アーティスト: ジョルディ・サヴァール,ル・コンセール・デ・ナシオン,モーツァルト
- 出版社/メーカー: Alia Vox / King International
- 発売日: 2019/07/31
- メディア: CD
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豊かに響く演奏。カタルーニャのカルドナという街の参事会教会で録られているそうです。空間の残響が効いています。
サヴァールは丸みがあって、柔らかくて、膨よかで、官能的で、とっても透明度の高い響きが基本だそうです。すごく聴きやすかったです。
この3つの交響曲は内容的にもセットであるとサヴァールは強調しているそうです。
1788年6月から8月にかけて立て続けに書かれたのが39番から41番の交響曲。この3曲はたまたま立て続けに書かれたのではなく、内容においてもしっかりと繋がっているという解釈はよくあるそうですが、サヴァールはこの3曲はフリーメイソンの思想に触発されて爆発的に天才作曲家の中に閃いて生まれてしまったという解釈をとっているそうです。
モーツァルトは1784年にフリーメイソンに入っており、翌年にはお父さんもフリーメイソンに入れられているそうです。
モーツァルトとフリーメイソンの結びつきから生まれた名曲。 フリーメイソンの会員の追悼式典のための曲。サヴァールは後期3大交響曲とフリーメイソンの関係を強調するために今回の新譜でカップリングしています。
1785年の作品で交響曲39番から41番より3年前の作品。モーツァルトはフリーメイソンとの関わりを深めて式典のための音楽も作って思想的にも深く感化されて1788年についにそのインスピレーションが爆発して3つの交響曲を連作したとサヴァールは考えています。
そもそもフリーメイソンとは何か?訳すと「自由な石工」。石工は建築の仕事に関わる職人で、石に関わらず建築全般の職人をメイソンと呼ぶそうです。ヨーロッパでは中世でも石工は教会とかお城とか建てる場所を旅して生きているので、国や領地を飛び越えて仕事をしている。1箇所にずっと住んでいる人に比べると心配の種が多い。知らない土地を渡り歩いて仕事をして暮らしていると、自分の権利が知らない土地で脅かされる可能性があるし、その土地の人が誰も守ってくれない可能性もある。それで組合を作った。建築の職人が国境、地域、民族を越えて助け合おうということで「フリーメイソン」という秘密結社が中世にあったと言われています。
その発想を受け継ぐ形で17世紀、18世紀に建築の職人ではなくて商人、学者、音楽家などヨーロッパで国境、地域を跨いで生きていく職業の人々が互助会的な組織を作って「フリーメイソン」と名付けて、会員は特定の宗教、民族、国家にこだわらない。自由と平等と仲間意識と同胞意識を信じて民族や国の違いにこだわらずに人類愛の実現を理想してみんなで助け合おうというのが「フリーメイソン」。
モーツァルトもウィーンのような大都会に出てきて、そこから演奏旅行に行くのでも、楽譜を売るのでも国境を越えて暮らさなければならないので、「フリーメイソン」の思想に素直に共鳴できる。「フリーメイソン」のような組織に入ることにメリットがある。今のようにパスポートがあれば外国でも守ってもらえる時代ではなかったので、秘密結社の仲間のネットワークが生きるために必要だった。
サヴァールはカタルーニャの人。カタルーニャはスペイン内戦でひどい目にあって、今でも独立問題を抱えていて、政治について積極的に発言したパブロ・カザルスのような大演奏家も出た土地。カタルーニャのサヴァールが民族対立とか文明の対立みたいなことにアーティストとしてとても敏感になる。今日の対立や分断の深まる世界の情勢に対して、「モーツァルトはフリーメイソンを通じて人類愛の理想に目覚めて3大交響曲を作った」と力強く発信したくなったのでしょう。
このサヴァールの解釈からすると、短調交響曲第40番は「苦難の中でも力強く頑張ろう!」というメッセージを発信する交響曲で長調の第41番は「フリーメイソンの理想である人類愛の勝利ということを高らかに歌い上げる」交響曲となります。
「フリーメイソン」の話を抜きにしても、とってもポジティブで明るくて豊かで心が広い愛のある演奏。