毎年恒例の番組。今年で15回目。今回は4人のゲストが来られました。
三味線奏者:本條秀慈郎さん
1984年生まれ。三味線で現代音楽をバリバリ弾かれている方。
「Async」で坂本さんと共演されてます。番組では生演奏と坂本さんと即興。
honj
「Async」を作っている時に本條さんのコンサートをNYで見に行って、すごく気に入って翌日坂本さんのプライベートスタジオに招いて録音した曲だそうです。昨年本條さんに頼まれて2曲目、3曲目を作られて、honjが組曲のようになっているそうです。
経済思想家:斎藤幸平さん
1987年生まれ。 「資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐」を読まれて、今回ゲストにお招きしたそうです。
資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐 (集英社新書)
- 作者:マルクス・ガブリエル,マイケル・ハート,ポール・メイソン
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2019/08/09
- メディア: 新書
András Schiff「Bach Partita No 2」
ドイツのベルリンに住まれている時にクラシックにハマったそうです。
ルールがあって、作曲者の意思を尊重して、演奏者が解釈して表現するところが哲学に似ているそうです。
小説家:平野啓一郎さん
1975年生まれ。映画化されたギタリストの物語「マチネの終わりに」の作者。主人公が言う「音楽というのは静寂の美と戦っているのが本来だが、現代では現代の喧騒と資本主義の喧騒とも戦っている」というくだりは音楽が分かっていないと書けないと坂本さん。
平野さんは、三島由紀夫にすごく影響を受け、今年は没後50年なので「三島論」をまとめられて出版するそうです。平野さんは45歳で三島さんが亡くなった時と同い年で「豊饒の海」を書かれた時の中年作家の気持ちは分かるそうです。ある意味うまくいっていなくて、メディアとかに揉みくちゃにされながら一生懸命書いていたと感じながら読むと身にしみるところがあるそうです。
「仮面の告白」を最初に書くのだから彼は天才だったのだと坂本さん。天才はだんだんなるものでなく、音楽家もそうだが最初からだと。
持って生まれたものはあると思いますね。努力しても身につかないもの。
Bill Evans「Blue in Green」
平野さんの選曲。坂本さんもジャズのピアニストではビル・エヴァンスが一番好きだそうです。まるでラベルのようだと。
経済学者・東大教授:安冨歩さん
れいわ新選組から出馬された時の演説、そして「満州国」がご専門というところに興味を持ち「満洲暴走」という本を読まれ、さらにマイケル・ジャクソンの名前が出てくるのは何でだろうとゲストにお招きしたそうです。
「満洲国」について
満洲の研究をしようと思っていて、1989年5月に北京に行った時に天安門事件に巻き込まれた。何百万人という人たちが恐怖を振り切ってデモに参加する風景を見て、これが人間の自由なんだなと思った。日本はちょうどバブルが崩壊する時。
円高不況の頃に銀行員としてバブルを起こすための仕事をしていた。みんな過労死しながらお金を人に貸しまくって今日に至る非常に大きなダメージを日本に与える活動に邁進していた。
バブルに踊っている日本社会と街に溢れてデモに出ている中国社会を見比べた時に、正常な社会はこっちなんだなと思った。その直後に戦車によってその自由は踏みにじられ今日に至る中国の暴走が始まる。
満洲国の研究をしようと思ったのは、銀行員をやっている時に優秀な人が集まっている会社にもかかわらず、そこで行われていることはどう考えてもおかしなこと。銀行の研修でやってはいけないと習ったことを支店でやっている。どうしてこんな優秀な人が集まってこんな愚かなことをするんだろうと思ったから。
このプロセスは日本が戦争に突入して行ったプロセスと似ているはずなので、大学院に戻って満洲国の研究をしようと思った。
1930年秋にロンドン軍縮会議(日本、アメリカ、イギリスそれぞれの議会で承認を得る)という非常に難しいことに成功した。ラジオ網を通じて日本の首相、アメリカの大統領、イギリスの首相が世界に平和を訴える演説をしている。恐らくこの時が近代日本の国際的地位が一番高かった時だと思う。その一年後くらいに満州事変が起きている。それからわずか15年で大日本帝国は滅亡する。それ以降二度と私たちは1930年の国際的地位を回復できていない。その頃の坂道を転がり落ちるようなスピードを知りたくて満洲国の研究を始めた。
「立場主義」について
日本の学術的な用語はほとんど英語の翻訳。民主とか社会とか日本語に見えるけど全部英語。明治の時に全部翻訳したもの。知識人になればなるほど日本語は喋らなくなって英語の翻訳語あるいはカタカナで喋る。
ところが、学者がよく連発する言葉に「立場」がある。この「立場」という言葉は英語に訳せない。ポリシーでもあるし、スタンスでもあるし、プリンシプルでもあるし、ポジション、シチュエーション色んなこと言わないと説明できない概念。
何で西洋言語の上に乗っかってしかものが考えられなくなった学者達が「立場」だけは乱用するのか?論文のタイトルにものすごく出てくる。
奈良時代の古い文献で「立つ庭」と書いていた。昔は生息場のことを言ったり、中世だと「市」売り買いする権利を言っていた。江戸時代は儀式の時にどういう順番で立つかというのが命がけの争いだった。
近代になって今私たちが使う「立場」という概念が成立している。夏目漱石の「明暗」という小説には17回くらい出てくる。それ以前の「坊ちゃん」にはあまり出てこない。夏目漱石は近代になって成立した立場に初めて苦しめられ、理解し、提示した作家。
「家」という制度が徴兵制度によって崩壊し始め、「家制度」がバラバラになって「犬小屋サイズ」になったのが「立場」だと思っている。
太平洋戦争の時はたくさんの日本人が「立場上」戦争に行かざるを得ない、「立場上」人を殺さなけらばならない、親と奥さんは「立場上」笑顔で送り出さなければならない、というような精神が日本人に叩き込まれ、戦後日本の経済発展の原動力となった。
縛られているというよりは私たちの倫理。
「マイケル・ジャクソン」について
アリス・ミラー 、アルノ・グリューンという二人の心理学者が「子供の時に受けた虐待」というのが、私たちの暴力性に非常に強く結びついているんだと言ってる。それが、普通の人が一生懸命頑張って悪事を行うということの背景にあり、唯一の解決策は「子供達を守ること」なんだと。全ての子供達を全ての暴力から守ることができたら、私たちは集団的暴力性から自由になれるだろうと。
(坂本さん)マイケル・ジャクソンは本当に傷ついている人だと思う。
自分自身の傷に向かい合って、原因を理解した。そしてそれを作品で様々な形で表現していった。その偉大さは変わりようがない。
スターは様々な社会的圧力がすごく大きくかかってくると思う。人間社会の持っている素晴らしさも、暴力性も身をもって体験し、まさに自分が訴えた「子供を守る」という理念の故に子供を虐待しているという攻撃を受け続ける。
(坂本さん)辛かったでしょうね。
これは本当に悲劇としか言いようがない。ある種の宗教的出来事だったなと思う。
(坂本さん)アイドルという言葉は元々「偶像」なんですから、宗教的な崇拝の対象ですよね
そうすると福音を伝えようとした人が血祭りにあげられるというストーリーは2000年位い前にあったなぁと。そういう現象が人類社会では繰り返し起きている。
(坂本さん)なんでマイケル・ジャクソンが出てくるのか繋がりが分かり納得できました
「Morphine」という曲が一番すごいと思っている。構成とかサウンドとかだけでなく、近代的な医療に対する告発の作品でもある。中に出てくる「デメロール」という薬の名前はマイケルが処方されていた鎮痛剤。合法的に処方されている薬の名前が「モルヒネ」っていうタイトルで出てくるということは、私たちがもっている医療とかそのものが麻薬的効果を持っているんだという。全人類を医療漬けにするという麻薬でもあるんだという告発の歌でもあると思う。
Michael Jackson「Morphine」
音楽は戦争に利用された歴史もあり、坂本さんは音楽の魔力を悪い方向に使ってはいけないと子供の頃から思っているそうです。
安冨さんはベートーベンの「運命」が力を持っているのは、近代の暴力性を表現しているからと解釈しているそうです。「暴力」と「隠蔽」がセットになっていると。第1楽章の第1主題は「暴力」、第2主題が「隠蔽」、第2楽章が「慰安」、第3楽章が「葛藤」、第4楽章で「開放」に向かっていく。近代システムが持っている「隠蔽された暴力性」、システム全体としては物凄い暴力性を持っているんだけど個々のプロセスは正当化されているという特徴を表現し、抜け出すための道を切り開こうとしているのがクラシック音楽なのではないかと思っているそうです。勉強になりました。
シューベルト「魔王」