メロウな風まかせ
ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動から生まれた歌がかかりました。5月25日アメリカのミネソタ州ミネアポリス近郊でアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんという黒人男性が白人警察官の適切とは呼び難い拘束によって死亡させられた事件。この事件に端を発した運動が「ブラック・ライヴズ・マター」。
この運動は、根強い人種差別、アメリカにおける警察官の横暴、分断されたアメリカあるいは分断された世界という現実を見せつけてくれています。
H.E.R.「I Can't Breathe」
ハーの新曲。ブラック・ライヴズ・マター運動のプロトタイプとなるような表現活動を展開してきたギル・スコット・ヘロンの代表曲の一つ「The Revolution Will Not Be Televised」が折り込まれています。
「I Can't Breathe」は直訳すると「息ができない」。ジョージ・フロイドさんが拘束を警察官から受けて亡くなる時に繰り返していた言葉。そして「精神的に息が詰まる世の中」を示す言葉と捉えることもできるそうです。
「Black Lives Matter」という言葉は2012年から、「I Can't Breathe」という言葉は2014年から人種差別の問題の時によくあがる言葉だそうです。
Gil Scott Heron「The Revolution Will Not Be Televised」
「革命というものはテレビ中継されることはないんだ」という痛烈な皮肉の効いた曲。今でも古典とされている1970年代の代表的なアフリカ系アメリカ人によるプロテストソング。
Keedron Bryant「I Just Wanna Live」
キードロン・ブライアントは12歳のフロリダ州ジャクソンビル出身ゴスペルシンガー。お母さんが作った曲をSNSにアップしたところ、大変な話題を呼びました。ジャネット・ジャクソン、オバマ元大統領という著名な方々が賛同の意を示してメジャーリリースとなりました。ジョージ・フロイドさんが亡くなった翌日に発表されたという速さが衝撃でした。
キードロンのお母さんが自分の息子のことを考えながら、悲しみの中で、強さをどうやって見出したらいいかという思いで書いた曲。「僕は若い黒人だ。毎日我慢を強いられていて獲物として見られている。」ということまで歌っています。
Amber Mark「My People」
1972年のエディ・ケンドリックスの曲がオリジナル。2008年にエリカ・バドゥも引用していますのでカバーのカバー。
Eddie Kendricks「Intimate Friends」
テンプテーションズのオリジナル・メンバーだったエディ・ケンドリックスの1978年のソウルチャート24位の曲。
松尾さんが「ブラック・ライヴズ・マター」についてお話をしてくれました。
現在というのは過去の積み重ねの上に成り立っている。
そういったものは尊重しなければならない。
尊重されるべき過去のことを伝統と言ったりする。
でもそれは今の時代にも有効であるのかという疑問は常に失ってはいけない。
必要とあらばそれを修正していくだけの勇気が今を生きる私たちの幸せな未来へと導いてくれるのではないかという気がする。
差別は、差別を受けている人だけの問題ではない。
そういった意見に対して「なくならないものもあるんだよ」という冷めた眼差しの人もいるが、僕はそうは思わない。
誰かの不平等というのを想像する、共感する、そういったことが求められているんじゃないか。
「その不平等を改善するために、たとえ自分の特権的な地位というものを捨てることになったとしても、あなたは不平等を無くしたいと思いますか?」ということを突きつけられているのだと思う。
既得権益という言葉があるが、例えば僕は日本に生きる日本国籍の男性。この国においてそれ自体がマジョリティであり特権的でもあると思う。そのことを意識しようが、しまいが、それを支える人たちによってこの既得権益というのは構造が成り立っているわけだから、それをどうやって変えられるか。差別を生み出す構造に目を向けなければ、メロウなR&Bを裏打ちする本質までは理解できないんじゃなかなという気がする。