新譜紹介
The Lumineers「III」
- アーティスト: ザ・ルミニアーズ,ウェズリー・シュルツ,ジェレマイア・フライテス
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
- 発売日: 2019/09/13
- メディア: CD
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なかなか大変な作品で渋谷さんもどう紹介しようか悩まれたそうです。
10曲全部にビデオクリップがあり、映画みたいになっています。
スパークス一家の3代を描いた悲劇的な物語。3代のそれぞれの登場人物たちのそれぞれの物語がこの歌の中で描かれています。
チャプター1にグロリア・スパークスというスパークス・ファミリーの最初の登場人物が描かれます。1曲目の「ドナ」という曲はお婆さんのこと。子供達が7人もいて一見幸せそうな家庭を築いていますが、実はアルコール依存であり、その中で7人の子供で心の闇を抱えている一人がグロリア。グロリアは自立して実家から出てニューヨークで暮らし始めますが、色々あって、母親と同じようにアルコール依存になって、結局彼女自身もものすごく困難な現実と向き合わなければいけなくなります。
映像の一番最後、彼女はアルコール依存で酔っ払って酒瓶を投げると夫にガツンと当たって、夫が頭から血を流して、これは大変だということで、夫を車に乗せて彼女は医者まで走ります。医者に走る道すがらトラックにぶつかって大惨事になって、夫は意識を失って血を流して、その恐ろしさに耐えかねてグロリアは車から出て逃げて走って行ってしまいます。
(訳詞)
グロリア、あなたの息から漂ってくる酒とペパーミントの匂いが
グロリア、誰も言ってくれなかったね、もう十分だと
グロリア、あなたは自分を責め続けた
グロリア、僕らは座って見ているしかなかった
グロリア、誰も言ってくれなかったね、もう十分だと
天よ、助けてくれ、道を示してくれ、この2本の足でまた立ち上がれるように
ベッドで横になったまま祈ろう
あなたが僕のせいで眠れなくなることがないように
毎晩眠れない、毎日孤立している
この2本の足で再び立ち上がらせてくれ
ベッドで横になったまま祈ろう
あなたが僕のせいで眠れなくなることがないように
グロリア、決めてくれないか
グロリア、もっと簡単に死ねる方法はいくつもある
グロリア、もう十分じゃないか
Gloria
続いてチャプター2の曲。ジュニア・スパークスというドナの孫の話。孫のジュニアは男の子で愛する女性に裏切られ、自分自身のアイデンティティを崩壊させてしまった非常に不幸な人生を歩んでいます。お母さんがやはりアルコール依存で、男を作って出て行ってしまうという境遇の中にあって、レフト・フォー・デンバー(Left for Denver)という曲は、「母親が自分を置いてデンバーに行ってしまった、どうしてなんだろう?」という思いを歌っています。
(訳詞)
いつ頃だったか、あの時、あなたは18歳だった
あなたは通りを横切っていた
足を組んで座っていた
少しばかり世間の冷たさに触れた
何もかも壊れつつあった
いつの頃だったか、あの時あなたは8年生だった
あなたは自転車をハイスクールに持ってきた
ゲータレードにアルコールを混ぜていた
何もかも週末のため
何もかもそれで壊れつつあった
あなたに諦めてしまえば楽になるとは言わなかった
みんなが笑ったのは、他の誰よりもあなたが踏ん張っていたから
なぜ出て行った?
何時いなくなった?
どうしてデンバーへ行ってしまったの?
私の知らない何を知っていた?
私の知らない何を
一人、二人、それとも三人の子供がいるの?
今はきっとアイラインを引く時間も限られている
何もかも相変わらず週末のため?
何もかも今も壊れつつあるの
Left for Denver
続いてチャプター3は、ジミー・スパークスというジュニアのお父さんの話。グロリアの兄弟。ジュニアのお母さん、つまりジミーの奥さんはアルコール依存症のまま出て行ってしまい、結局ジミーはジュニアを父親一人で育てていきます。
父親もすごく暴力的な形でジュニアに対して抑圧的に接して、やっぱりアルコール依存症で家庭は完全に崩壊してしまって、ジュニアそのものも家を出てしまって、ジミーは孤独、一人生きています。10曲目の「Salt and the Sea」という曲でこの物語りの結末が描かれます。
ドナの孫であるジュニアは出ていき、ジミーが一人で非常にすさんだ生活をしている。そこにジュニアが帰ってくる。お父さんのジミーは酒に呑んだくれて如何しようもない状態。荒れた生活をしている。
色々あって、お父さんが怪我をしてしまって、グロリアと同じようなシチュエーションになります。ジュニアがお父さんを連れて車に乗って病院に連れていきます。一生懸命、車に乗って病院に連れて行って助けようとしますが、また事故に会ってしまいます。お父さんが犯罪をやっている匂いもあるのですが、お父さんがジュニアに向かってこの事故で警察が来るとまずいこともあるからお前は一人で車から出て行けと言って、お父さんが瀕死の状態で車に残されたまま、ジュニアは泣きながら走って逃げていくというシチュエーションで、非常に重くて暗い物語が終わります。
つまりチャプター1と非常にリンクしていくわけです。
「Salt and the Sea」というのは、ジュニアからジミーに、自分の荒れた父親に向けて現在を歌っている曲です。
(訳詞)
もしかして、あなたが夜更けに抱きしめていたのは僕だったのか
裏階段で、あなたは涙を浮かべて膝から崩れ落ちた
苦しみも、病も、一つ残らず
何も隠せなかったね、僕には隠せなかったね
部屋に籠って怯えている
でも、家には本当に誰もいないのか
あなたはベッドに横たわって、どうかこのままそっとしておいてと祈っていた
僕の体を丸ごと暗闇に飲み込ませてしまおう
あなたを見つけ出したい
知ってほしい
友達になれるよ
陽の光の中でもう一度
僕らは一緒だ
まるで旧知の敵のように
塩と海のように
Salt and the Sea
トータルでビデオクリップを見るとすごくズシンときます。この物語は自分に置き換えてもすごく分かるところがあり、色んなことを思います。
血縁という運命、逃げても逃げきれない。怖くても受け入れて解決しなければ苦しみは続くこと。
この物語はヴォーカルのウェスレイ・シュルツ(Wesley Schultz)のパーソナルな経験と密接に関わっているそうです。
渋谷さんに紹介してもらって本当に良かったです。
ボーナス・トラックで現在の民主主義に対するすごく批判的なメッセージを歌ったレナード・コーエン(Leonard Cohen)の「Democracy」という曲が入っています。彼ら自身が今の社会や、今のポップ・ミュージックのあり方をしっかり根底から考え、向き合って、すごく真摯に作った作品という渋谷さんの評価です。